これは、いったい、どういうことなのか。
バスのいちばん後ろの席、窓に頬を押し当て、すれ違う車たちをそれぞれ1秒ずつ目で追いかける。
下校ラッシュにもかかわらずガラガラの車内で、彼はひとり分の空席を作ってわたしの右側に座っていた。
おそろしいほどに無言だ。
なんなの、これは。
どういうことなの。
もしかしてわたし、拉致されているの。
いつのまにかすっかり引っこんだ涙。
残った塩分でバリバリになった顔を彼のほうへ向けると、いきなり、ばっちり、目が合った。
温度のない瞳だと思った。
泣きはらしたわたしの顔面があまりにぶさいくすぎて、イケメンにとっては言葉を失うほどなのかもしれない。
「いったいわたしをどうする気で……」
「あの場にひとりで置いてって、二次被害が起こったら困る」
ピン、ピン、ピン、ピーン!
といった具合で彼の視線が自らのスニーカーに落ちていった。
どろどろに汚れてしまったスニーカー。
見た瞬間、心臓がひゅんっと縮こまる。
「まさか、なんの落とし前もつけないで逃げる気だった?」
全身にさぶいぼが広がる。
涼しい顔して、淡々とした口調で、こんな甘いマスクで、どうやら中身はかなりヤバイ人みたいだ。



