「俺んち来る?」

私を見上げながら死神が、今日の朝はフレンチトーストだったんだ、みたいな調子で言ってきた。

「……は?」
「どうせ死ぬんだろ?だったら俺んちでだらだらして死んでもいいんじゃね?」

とりあえず聞き間違いではなかったらしい。ていうか何言ってんだ、この馬鹿は。
怪訝そうに顔を歪めれば、死神は上半身だけ起こして、私のほうに向き直った。

会ったばかりの変質者に着いて行くほど、私は酔狂じゃない。

「死に急いでる訳でもなさそうだし」
「だからって、何で私が、」
「どうせ投げ捨てる命なら、その前にぱーっと遊んどけって」

両腕を広げて、にやにやと笑ってる死神に、私はぞくりとした。
悪寒とか恐怖とか、そういうんじゃない。もっと痺れて甘美な何か。
それが背中を伝って、腰に響いたのだ。

廃屋に入り込む風は、とても冷たくて。
この世界と隔絶された空間に居るようにさえ思える。
そんな状況に居て、たぶん思考回路が、ぶっ壊れてたんだと思う。この男にそそのかされた訳じゃないし、こいつに着いて行ったら殺されるんじゃないかとかの心配もしてない。
どのみち、死ぬつもりなんだ。

こいつの手を取ったところで、どんな事になっても知ったことか。


半ば投げやりに、私は会ったばかりの死神と同棲を始めることにした。