次の日、また私は死に損なったマンションに来た。

「お、やっぱり来たな」

何で、お前がここに居る。死神。

「また居たの?暇なの?」
「わざわざ、こんな所まで死にに来る、お前ほどじゃねーけど」
「うっさい。つーか、くっさい」
「はあ?臭くねーし」
「煙草臭い」

ああ、さっき吸ってたから。
そう言って死神がまた一本吸い始めた。

死神は汚れるのを気にしてないのか、地面にごろんと横になった。
汚いよ、と言ってみるものの、私の話なんか聞いちゃいない。

「今日も自殺すんのか?」
「アンタの顔見たら、やる気失せた」
「そりゃあ悪いことしたな」

絶対悪いとか思ってないくせに。

「で、何で自殺なんかすんだ?」
「……なんとなく」
「思春期か」
「そう見える?」
「人間、一度くらいは死にてえって思ったりするもんだろ」
「死神が人間を語らないで」
「ごもっとも」

ムカつくけど、嫌いにはなれなかった。

瞼を閉じて、ぼんやりと死にたい理由を探してみる。
だけど、これといったものが見つからなくて、私は笑った。
理由なんかあってもなくても同じだ。
イジメだとか社会への不満だとか。そんなもんが無くても死ねるし、人間ひとり死んだところで世界は何も変わりはしない。
ぐるぐる朝と夜が回るだけ。

結局、理由なんか取って付けたようなもので、死にたいから理由を探してるんだ。
死にたくない人間は理由があっても、死なないし。
死にたい人間は理由がなくても死ぬ。

現実なんて、そんなもんだ。どんなに綺麗事を言ったところで、逃げ回って、おっ死んだってことには変わらない。


死神を見下ろせば、退屈そうに煙草を吹かしてた。