「……もしかしなくても自殺?」

私のものじゃない誰かの声に思わず、びくっと大きく肩を揺らして振り返れば、男の人が居た。

脱色しまくって、からからに傷んだ真っ白な髪と、お世辞でも血色の良いとは言えない肌。

頭の中でサイレンが鳴り響く
こいつは―――変質者だ

だけど、ここでぎゃあぎゃあ喚くのも可笑しい。
私は死ぬために来たんだ。
こいつに殺されようが、こっから飛び降りて死のうが一緒じゃないか。

「アンタ、誰?」
「俺?俺は……そうだな、死神」
「はあ?頭おかしいんじゃないの?」
「今から自殺する奴に頭おかしい呼ばわりされたくねーよ」

まあ、それもそうだ。

ゆっくりと面倒臭そうに、自称死神は私に近付いてきた。
と、思ったら、汚れた地面に座ってズボンのポケットから煙草を取り出した。
しかも吸いやがった。

「……何してんの」
「何って、煙草吸ってんだけど」
「そうじゃなくて」
「あ、俺に構わず死んでくれ」

にやにや。死神はどこか薄気味悪い笑みを浮かべて私を見てる。
月光で顔に光があたり、やっと死神の顔がはっきりとした。

眠そうにとろんとしている瞳
気だるそうに煙草をくわえた少し薄い唇
世間一般から考えても、イケメンの部類に入るであろう容姿
死神を名乗っている割には着崩したスーツを着ている

「見られてたら、死ににくいんだけど」
「気にすんなって」

さあ、どうぞ。
そう言わんばかりに笑われる。

死神はイカれてる。どこの世界に他人の死を見物したがる奴がいるのか。
一部の変態は除いておこう。

はっきり言って興醒めだ。

「やーめた」
「あ、死なねえの?」
「見世物じゃないもん」
「どうせ死ぬんだから、んなもん気にしてたら仕方ないっしょ」
「それでも嫌」
「お前って、ワガママだなあ」

どの口がそう言うのか。