目を閉じ、呼吸を整え、集中力を高めるきょうこ。

…心の中で、己の名を書き記す。

達筆を走らせるように、『きょうこ』と。

その記した名を、彼女は心中で消去して新たな文字へと書き換える。

かつて魑魅魍魎を調伏した名神家の先祖達は、この能力を駆使して人外に立ち向かったのだ。

例えば『強固』と名を書き換えて強靭な肉体を得る。

『叫虎』と書き換えて咆哮も雄々しい虎に変化して戦う。

名神家の術式は、無辜の民を守る為の神聖な技なのだ。

しかしながら、既に現在は人に災いを運ぶ妖怪変化など滅多にお目にかかれない太平の世。

神聖な名神の術式を継ぐきょうこも、いささか緊張感に欠けるようだ。

そのせいで、技を悪戯に使う事も少なくない。

事実先日の期末テストでは、きょうこは『教子』となって教師並の頭脳を獲得、容易くテストをこなしてしまった。

そして今考えている事も、ほぼ似たり寄ったり。

本来の名を消去し。

(『胸子』っ…と…)

胸のなさを馬鹿にするクラスメイト達を見返す為に。

きょうこは能力を発動させた。