「一度消えた人に目印を付けてたら、病院で反応が出たらしいの」
どこ、とは言わなかったが、学校上にあるあの場所だと思った。
「クロ、中はどうだったの? 見たんでしょ?」
「敷地内だけだがな。外にいたのは軽度の患者のみで、特に怪しい存在は認識出来なかった。もし反応が出たとすれば病室の何処かか、オレの認識を欺く存在がいる、と言うことになる」
「へぇー。もし後者なら結構やるわね、クロを欺くなんて」
「本当じゃのう。感覚は優れているというのに」
返事をしたのは猫。突然の登場だが、空から降って来たエフほどの驚きじゃない。オレは台所から、手懐け用の大福を猫に差し出した。本当に悪夢を見せられてはたまらないから、特大サイズを用意している。
「おぉ~! これまた食べ応えがありそうだ」
見るからに機嫌がよくなった猫。そのままエフの膝でくつろぎながら、自分の顔よりも大きな大福を食べ始めた。
「まさかハクにも会えるなんてねぇ~。大福につられて来たの?」
「違うわい。そこの女が挨拶に来てな。お主以外に訪ねる者など珍しいから来ただけじゃ。そういうエフこそ何故ここにおる。仕事はよいのか?」
「今日はもうやめなの。ひーちゃんと寛ぐんですぅ~」
「怠け者じゃのう。主がこれだと、使いは苦労するな」
「失礼ねぇ。ハクみたいに気紛れじゃないわよ」
……なんかもう、こっちが言わなきゃどんどん二人だけで話していくらしい。
「頼むから、二人の関係を説明してくれ」
そもそも、猫の名前だって初めて聞いたし。懐かしいのはわかるが、内輪だけで進めるのはやめてほしい。
「ん~なんて言えばいいのかなぁ?」
「まあ簡単に言えば、ワシらは【元敵同士】じゃ」
「はっ? 敵ってな――っ!」
途端、雰囲気が重くなった。原因は(主に)男とひの。二人は猫をじっと見つめ、どうでるのかを見極めているように思えた。
「クロ、目付き怖いよ? 神様にそんな顔しないの」
「……神様だろうと、貴女の敵になるかもしれない存在に気は抜けない」
「だから元敵だって。ハクを封じたのは私だから、また敵になるようなことがあっても大丈夫。クロを捕まえるよりも楽だしね」
「捕まえたのはひのだ。貴方じゃない」
「ひの――? あ、名前もらったんだ。よかったねぇ~! ってかクロ、呼び捨てなんてなれなれしいじゃない」
「本人がそう希望したんだ。貴女がとやかく言うことじゃない」
「全く、本当に使いなのかしら? 私に口答えばっかりだし」
「貴女とは対等な関係だ。根本的なことを忘れてもらっては困る」
「やはり使いの方が苦労しているようじゃな。男、今度エフについて語らおうではないか。秘蔵の酒もあるぞ?」
「ふっ、面白そうだな」
「……あのさ、そういうのは後からしないか?」
大事なところで止まったままだろうと言えば、エフは今更のように思い出したような顔をした。



