「聞いてたとおりか。何故人間が主になっている?」
親しげに話す男に、ひのはオレと出会った夜のことや、さっきまでのことを説明した。
男はオレよりも身長が高く、七十七か八ぐらいはありそうな長身。体は黒い服で覆われていて、なんとなく、昨日見た女の子を思い出してしまった。
「そういうことか。なら、オレも行った方がいいか」
オレと視線が合うなり、男は家に寄らせてほしいと言ってきた。
「居座ってる神様に会いたい。会わせてくれないか?」
「いいけど、帰ってるかわからないぞ」
家に向かい歩き始めれば、その間にも、男はひのと何やら話していた。
「今回も、情報交換をしてもらえるか?」
「嬉しいけど……以前と違い、私はこの場所の知識がない。主から得る方がいいと思う」
「なら、まずはこちらから渡そう。――山の上にある病院には行ったか?」
【病院】と言うフレーズに、ドアを開けようとした手が止まった。手にじわじわ汗がわいてくるのに、体からは汗が引いていくような……嫌な感覚だ。
「――大丈夫ですか?」
ひのに声をかけられ、オレはようやくドアを開けた。中に入って見てが、猫の姿は見当たらなかった。
「悪い、今いないようだ」
「ならオレは戻る。情報はまた、明日にでも――っ!」
男がしゃがむのとほぼ同時。またしてもオレの頭は下げられ、今度は何が来るのかと思えば、
「ク~ロ~!!」
かなり機嫌の悪いエフが、ドアを蹴破って侵入して来た。
「自分だけひーちゃんと会うなんて……抜け駆けとはいい度胸じゃない」
オレたちの前で仁王立ちするエフ。どう声をかけていいか悩むオレに対し、男は深いため息をつきながら立ち上がった。
「会ったのは偶然だ。別に抜け駆けをしたわけじゃ」
「それでも許せません! もう今日の仕事はやめよ。ひーちゃんとまったりタイムにするから」
ひのの腕に抱き付き、エフは男に向かってあっかんべーをした。



