「……夜だと不気味だな」
あまりに静かなせいか、透はこの場の雰囲気を嫌がっていた。
本人は気付いていないようだけど、危機察知能力は高いようだ。今この場には、さっき訪れた時には感じなかった悪意が漂っている。それを感じられるというのは、生きるうえではとても役に立つ。
「……そろそろ、帰らないか?」
私が言う前に、透から言われてしまった。
「そうですね。神様の好物も手に入れなければなりませんし」
病院に背を向け、私たちは街を目指した。
視線だけで背後を見る。何も付いてくる気配は無かったが――病院の屋上から、赤い目が幾つも見ていた。
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買い物を済ませ、あとは帰るだけ。数日分の食材はもちろん、猫用のエサ(大福)も忘れてない。これで機嫌が直ればいいけどさ。
「――――あっ」
急に立ち止るひの。何を見てるのかと思えば、一匹の黒猫を見ていた。あの神様かと思ったけど、その猫は青と緑の目をしていた。
「――――!?」
きょろきょろしていた猫が、オレたちを見るなり固まった。
なんか驚いてるようだけど……もしかして、食べ物の匂いにでも反応してるのか?
袋を揺さぶると、猫はあかるさまに首を横に振る。
「まさか、アレも敵なんてこと……」
「それはありません。でも、ここではなんですから」
そう言うと、ひのは猫に手招きした。近寄って来るのを確認すると、家に行きましょう言って歩き始めた。時々後ろを見れば、猫は一定の間隔をあけてついてくる。ひのの言葉がわかるようだし、そうなると、コイツもただの猫じゃないってのは予想がつく。
「――ここならいいでしょう」
もう少しで家につくって言うのに、ひのは神社の前で足を止めた。ってことは……コイツも神様?
「今なら人もいない。戻っても平気」
告げると、猫は自分でも周りを確認し、なぜかオレのことをじーっと見つめてきた。
「今回の主だから、警戒する必要はない」
それでもまだオレのことを見る猫。こんなに見られると思ってなかったから、オレは思わず視線を外した。
「――本当に人間か」
男の声に振り向けば、ひのの隣に二十歳ぐらいの男が立っていた。



