少年を背にし、私は女の子を見る。
「お兄ちゃんどうにかしないと、また操られちゃうよ?」
笑い声を上げる女の子。まだ少年を使うことを考えているようだけど、そんな暇は与えない。
「我肉体は――主の剣」
カチリ、右手の鎖が解ける。
「我肉体は――主の盾」
カチリ、左手の鎖が解ける。
「なにをやっても勝てないって。早くエサになったほうがいいよ?」
女の子の両隣りに、再び影が現れる。先程よりも素早い動き。おそらく、早さに特化したモノを出したんだろう。
「今のままじゃ確かにできない。――だから」
私の周りに、小さな風が巻き起こる。翠色をした風は次第に大きくなり、こちらに向かってきた影を囲んだ。
「にぶくなった?――なにをしたの?」
「束縛。あなたぐらいの力じゃ、これを跳ね返すなんてことはできない。それに――本当の意味で、あなたは終わる」
「あははっ。おかしくなっちゃったのかなぁ? 詠唱したのにそのていどだなんて、敵うわけナイジャナイ!」
女の子はまた、影を出現させた。
「……大丈夫っ、か?」
脅えた声で、少年は私に問う。だいじょうぶだと笑みを見せ、私は本格的な詠唱に入った。
*****
少女が唱えようとしているのは、自己の力を最大限引き出す為のもの。術と呼ばれるものは、その詠唱が長ければ長いほど威力と効果が増幅する。だが、あまりに長いものは戦闘に不向き。特に今の状況なら尚のこと。だから少女は、最低限の言葉を選び出していた。詠唱で最も大事なことは、いかに自分をその気にさせるかという自己暗示。必要な流れを組んでいれば、正直言葉はなんでも構わない。
「Illuminate the darkness light. Light lies ahead of prayer. Remember……Origins sleep in the back of the body」
(闇を照らすは光。光は祈りの先に在り。思い出せ……この身の奥に眠る起源を)
少女は透を見る。それが合図だと解り、透はおそるおそる、
「っ――――ゆる、す」
脅えながら、言われたとおりの言葉を口にした。途端、少女の足元に布陣が浮ぶ。
「Right now, we do request a figure that exceeds the original!!」
(我は今、原初を超えた姿を求めん!!)
体に模様が浮かび上がると、強い光が放たれた。思わず目を閉じる透。光は一瞬で、次に目を開けた時には――目の前に、まったく別の容姿をした少女が立っていた。



