「神経を操るものね。これで幻覚でも見せる気だったの?」
そう聞いても、何も答えはしなかった。だが、私の予想は合ってるみたい。文字を見れば解る。
「どうする? 大人しく逝くか、それとも――!?」
突然、背後から首を絞められた。
バカな。影はもう使えないはずなのにっ。
……横目で見たのは、眠りに落ちているはずの少年。
術が解けた? いや違う。まだ意識は落ちてる。だったら何故――。
「これが――わたしの力。ふふふっ」
力が緩んだ隙に、女の子は、私の手から逃れていた。
「こうやって、お互いを傷つけてもらうの。ほんとは人間を操るほうが得意なんだよねぇ。信じてたもの同士が戦うのなんて、あれは見ものだよ~。その時の憎悪がまたおいしくてたまらないの。わたしとしては、自分の意思と反して相手をころしちゃったって時の感情が、たまらなく好きなんだぁ~! 今回みたいなパターンは初めてだから、どんな味になるのか楽しみ~」
「がっ!?」
「あ、力づくじゃ抜けないよ? わたしの力もプラスしてあるからね。
さぁ~てと。どうする、お姉ちゃん? 大人しく食べられてくれるか――オニイチャンニ、コロサレタイ?」
ぐぐっ、と首に力が加わる。
眠らせるだけでは、巻き込まないなんてことはできなかった。これも……早く少年を陣地から出さなかった、私の失態だ。
「お姉ちゃんは勝てないよ? お兄ちゃんはもう、ワタシノニンギョウダカラ」
女の子は、懐から何かを取り出す。
「ごふっ!……」
何かが、体を貫く。視線だけを動かして見れば、刀のような物が腹部から出ていた。
「――――ぁ、あぅ…」
首を絞める力が弱まった。急いで体に刺さった物を抜き振り返れば、少年ががたがたと震えている。自分の手を見つめ、何かを呟きながら。
少年の手を取り、後ろへ飛び跳ねる。
女の子との睨み合いが続く間、少年は小さな声で、オレが…オレは……と、何度も繰り返す。
「だいじょうぶ! これはあなたのせいじゃない。あなたは気にしなくていいんです!」
「だ、けど……オレはっ」
この場を収めるには、普通に戦っていては勝ち目が無い。限られているけど、今はこれしか――。
「――――合図をしたら、「許す」と言って下さい」
「? ゆるす、って」
「深く考えないで。あなたはただ――その言葉を告げればいい」
両肩に触れ懇願すれば、少年は小さく頷いてくれた。



