それから、俺の中で「矢沢直」という生徒が少しだけ気になる存在になった。


それは、恋をしたわけでもなく、ひいきでもなく、ほんの小さな変化。


俺は、生徒に恋愛感情なんて抱かない自信がある。



遅刻しそうになった矢沢を追いかけて笑い合ったり、

廊下を走ってばかりの矢沢を注意したり・・・


いつも俺に向かって走ってくるあいつが、俺の心の穴を埋めてくれていたのかも知れない。


廊下であいつを見かけると、俺は何かを期待していた。

あの優しい微笑み。

優しい声で、年下なのに・・・俺を心配してくれる。


あいつの「せんせい!」って呼ぶ声を、いつからか待っていたんだ。



元気なようで、時々寂しい目をする生徒。

心配で声をかけようと思うと、すぐに笑顔になる不思議な子。