あれは、彼女が入学してきてからしばらくしてからだった。


俺は、孤独に耐え切れず、放課後・・・夕日ばかり見ていた。

音楽室の前の廊下から見える夕日は、最高だった。


叶わぬ願いや、後悔や、いろんな自分の気持ちをそこで整理するのが日課だった。



その日に限って、俺は整理できず・・・

逃げ出したいくらいに寂しい気持ちになっていた。



「せんせー!!どうしたの?」


俺の背中に触れたのが、彼女だった。


矢沢 直。


授業以外で話したことのなかった生徒で、

俺はその時はまだ彼女の名前すらハッキリ思い出すことができなかった。




「ありがとな・・・」


俺は、彼女の手から伝わる温もりに救われた。

背中が温かくなり、その温もりは俺の心にまで届く。


寂しい俺の心に少し温かさが戻る。



彼女は何も聞かず、ただにっこりと微笑んで、その場を離れた。


「廊下、走るな!」という俺の声も無視して走り出したその背中から、目を離すことができなかった。



生徒に助けられるなんてな・・・

教師なのに、俺は情けない。