「まぁったくもう、この口はぁ~~っ! まだ懲りないのっ?」

「ほんろのころやらいでふか(ほんとのことじゃないですか)」

抓られながらも反論すると、さらに、むにーっと引っ張られる。

「いだだだだっ」

与一が叫ぶと、やっと藍は手を離した。
頬を押さえる与一の鼻先に、びしっと人差し指を突きつける。

「あたし、よいっちゃんをそんな悪い子に育てた覚えは、ないんだからねっ」

「乱暴者に育てられたから、しょうがないんじゃないですか?」

「むきーーっ!!」

猿かよ、という鳴き声を上げ、藍が与一に飛びかかった。

「このこのこのぉ~~っ!! 馬鹿馬鹿、よいっちゃんなんて、馬鹿ちんなんだから~~っ!!」

「い、意味がわかりませんよ」

ぽかぽかぽかと振り回される小さな拳を避けつつ、与一はうんざりした顔をした。
とにかく藍を落ち着かせるべく、辺りを見回す。
少し向こうの本殿のほうに、屋台が出ているのが見えた。

---藍さんは、普通のモンじゃ釣れねぇしな---

りんご飴や射的の屋台は無視し、飯のほうを捜す。
そのうちの一つに、視線が止まった。

「あ、稲荷」

「どこっ?」

忙しく拳を避けながら、ぼそりと呟いただけなのに、藍はぴたりと動きを止めて振り向いた。

「あそこの、ほら。あ、でももう閉めるようですね」

日はどんどん傾き、もうほとんど境内に人はいない。
屋台も店じまいを始めている。

藍は目ざとく稲荷の屋台を見つけ、一目散に飛んでいった。