しかし与一が敬語を使うように、この幼げな天女は見たままの女子ではない。
裏の世界では知らぬ者のない、凄腕の殺し屋・藍。
それがこの天女の真の姿だ。

目立つ容貌のため、藍は外では滅多に顔を曝さない。
故に、名前が売れても藍の顔を知る者は、ほぼ皆無だ。
まさかこの少女が、事も無げに依頼人を確実にあの世に送り届ける腕を持っているとは、誰も夢にも思わないだろう。

「それはそうだけどさっ。よいっちゃんを育てた親としては、あんまり嬉しいことではないわよ」

てくてくと横を歩きながら、藍が膨れる。
仕草もまるでお子様だ。
が、自分で言うように、紛れもなく与一を育てたのは藍である。

五歳で村から売られてきた与一を引き取ったのが、この藍なのだ。
当時、藍も幼子だったわけではない。
与一が五歳から十六歳までの十一年間、藍は全く変わっていないのだ。

何故かは知らない。
藍の過去など、何も知らない。
ただ五歳で引き取られてから今まで、与一はこの美しい殺し屋に、ずっと殺しの術を叩き込まれてきたのだ。