「何わからないこと言ってるんです。俺だって、そんな藍さんが呆れるほど、遊郭に通ってるわけじゃないでしょうが」

「あたしが呆れるほど女に狂っちゃったら、それこそSAAぶち込むわよっ」

物騒極まりないことを言う。
しかも藍の行動は、いつも本気か嘘かわからないので始末が悪い。

顔色すらも、自在に操れるのだから。
家で頬を染めたのも、今青くなったのも、きっとわざとなのだ。

「わかりましたから、いい加減にどいてください。重いです」

「んまあぁぁぁ~~っ! もーーっ! よいっちゃん、失礼よっ!! いくら顔が良くたって、そんなこと女の子に向かって言ったら、嫌われちゃうんだからねーっ!!」

んべえぇぇ~~っと、子供顔負けの激しさで、与一に向かって舌を突き出す。

ほんとに一体、この美少女は何歳なんだか。
こういう仕草が、おかしくないどころか、妙にハマる。

十中八九、男ならめろめろになるだろう。
が、与一はその内の、二、一のほうだ。
胡乱な目で、己の上で吠える藍を見つめ、突き出された可愛い顔を、遠慮無く掴む。

「どかないと、顔から投げ飛ばしますよ」

「にゃーっ!」

顔面を掴まれ、藍が妙な声で鳴く。

「投げ飛ばす前に、噛み付いちゃうんだからっ」

「とうっ」

藍が言い終わる前に、与一はかけ声と共に、顔を掴んだ手を、そのまま思い切り振り上げた。
同時に足で、藍の身体を蹴り上げる。
小さな藍の身体が宙に浮いた瞬間、与一の手の平に、小さな痛みが走った。