慈恩が持ってきた湯呑を見つめながら雪は呟いた。

「ねえ、私は本当にヒトの世界に帰れないの?」

「ごめんなさい……」

「謝んないでよ……希望がないみたいじゃない……」

「ご、ごめ……うぅ」

「あ、あのさ、お兄さん、慈雨さん?今いくつなの?200年ってことは、それに近いのはわかるんだけど」

もし、時間があるなら、帰る方法を見つけることもできるかもしれない。
それまで選択を先延ばしにすることもできるはずだ。

「お兄は3ヵ月後の長月で200になります」

「う……わかってはいたけど、長生き……若そうに見えたけど、中身はおじいちゃん?」

「狐はヒトに化けたとき、性格に相応しい姿になるそうです。ですから……大丈夫かと」

「慈恩君は若いね。12歳くらい?」

「じ、実年齢は12です……すごいです……よくわかりましたね」

「12歳にしてはしっかりしてると思うよ……っとと、話しがそれちゃった。……えーと、じゃあ、あと3ヵ月は決めるのを先延ばしにできるんだよね?」

「いえ、今すぐ決めてください」