「おいしい……!」

「あ、あの、ごめんなさい!」

「これの名前知らないこと?気にしなくてもいいよ?絶対知りたいわけじゃないし」

やっぱりちょっとは気になるけど。

「そ、そうじゃなくて……あの、ごめんなさい」

本当に申し訳なさそうに慈恩がしゅんとうなだれる。
髪と同じ色のしっぽと耳もぱたん、と力なく……しっぽ?

「妖怪!?」

「伏見の妖孤です!妖怪みたいな低級と一緒にしないでくださいっ」

「えっ?ご、ごめん」

いきなり立ち上がった慈恩に驚いて雪は思わず謝った。

「と、いつもお兄が言ってました」

「お兄さんのほうなの!?」

自分じゃないの?
それよりも……お兄という呼び方になんかデジャビュを感じるような。

「神に最も近い霊獣なのだからそれ相応の誇りを持てといつも言われます」

「神……?」

「妖孤は、八百万の……日本を守る神のうち、固体名を持つ最も強い力のある神々の眷属、なのです」

「言葉ではなんとかわかるんだけど、感覚がつかめない……」

「そ、それはまた今度、話す機会があると思います」

「なんで?倒れたところを助けてもらったのはありがたいけど、私はもう帰るし……」

「帰れないんです」

「え?」

「ヨモツヘグリを食べてしまったから、お姉ちゃんはもうヒトの世界に帰れません」