鳥居が途切れ、開けた場所に出た。
いつの間にか雨は止んでいた。

「お兄!」

狐のお面の男の子は雪の手をほどくと走り出した。
雪は人が立っているのに気が付いた。
背の高い、男の人に見える。
男の子と同じ狐のお面をかぶっていた。

「慈恩……」

男の人が男の子の名前らしきものを呟いた。
そっか、あの男の子ジオン君っていうんだ。
慈恩は兄、と呼んだ男の人になにかを話していた。
男の人は時折うなずいたり口をはさんだりしていた。
雪はなんだか近づけなくて、所在無さげにそわそわしながら立っていた。
やがてひと段落ついたのか、慈恩が雪に手招きをした。
雪は少しためらってから歩いて二人に近づいた。

「お前、名は?」

男の人は高圧的にそう聞いた。
雪は少し萎縮しながらも応える。

「雪、です……竜藤雪」

「リンドウ?ふむ。それでこの霊力……」

男の人はぶつぶつと何か呟き始めた。
雪は勇気をだして、恐る恐る尋ねた。

「あの……あなたは?」

「あ……俺か?」

男の人の高圧的なところが消え、かわりにどこか友好的な雰囲気が出ていた。

「俺は慈雨という。さて、お前に聞きたいことがある」

「ふぁい?」

慈雨、と名乗った男の人の豹変ぶりに気持ちが緩んで雪は間の抜けた返事をした。
くっくと慈雨は笑ってとんでもないことを言い放った。

「俺の嫁になるのと、いけにえになるの、どっちがいい?」

これは、性質の悪い夢だ。
そう思って雪は気を失った。