「え?……な、なんで?」

「お兄が神になるのをよく思わない別の地域の妖孤の群れがあります。今まで力を尽くしてくれたお姉も嫁入りをしてしまって、もう時間がないんです……。選んでくれないと、困ります」

「そ、そんな……勝手すぎるよ。だまして連れてきて、逃げられないようにして、そんな選択をしなきゃいけないなんて……私の気持ちはどうなるの?知らない人と結婚するのも、いけにえも嫌だよ……」

「お姉ちゃん……でも、お姉ちゃんは選べるんです」

「選べる?」

「かつての神は、嫁にする妖孤も、いけにえにするヒトも、全部自分で選んで決めてました。こんなふうに、お姉ちゃんに選ばせたりしなかったんです。お姉ちゃんは、なんの覚悟もできずに理不尽に運命を決められたかつての姫たちとは違います……自分で決められるんです」

「だからって、こんなことしていい理由になってない……」

「……ですよね。とりあえず、お兄に会ってみたらどうでしょうか。僕でも、今のお姉ちゃんと同じ立場だったら、決められません。会って、話しをすれば、少しはわかることがあると思います」

「……うん」

雪は視線をさらに落とした。
手の震えに合わせて、お茶に波紋が広がっていく。
ほっと深呼吸をして、雪は湯呑に口をつけた。