「そんなことしたってムダだよ」
畦道に佇む男が、田植えをする老人に呼び掛ける。
「あと3ヶ月で、この星は消えちまうんだ。収穫はできないぜ、ソリスティア」

「ガリエラよ、そういう問題ではないのだよ」

老人が顔を上げ、分厚い手袋を外しながら言う。
「一杯やるか」
水筒の緑茶を二人でラッパ飲みする。
言葉もなく、喉を鳴らす音だけが聞こえる。
いや、時折響く重苦しい地鳴りが、星の命に終わりが近いことを告げている。
「我々はこの星で産まれ、育ってきた。ただ棄てて行くことなどできんよ」
そう言うソリスティアの眼前で、僅かずつではあるが水が渇れていく。それが見て分かるということは、地熱温度が耕作どころではないほど上がっていることを示している。
「俺はもう行くよ。あんたも急げよ」
ガリエラは宇宙港に向けて歩き出す。
「最後の舟には間に合うさ」
ソリスティアのその言葉が嘘だと分かっているから、振り向くことはできなかった。