あきれるくらい側にいて


本来ならあたしは今頃、披露宴の衣装合わせに行ってるはずだった。

その予定を昨日、自らの手で壊してしまった。

それだけじゃない。結婚の予定そのものを無くしてしまったんだ。


「ハァー」


息を吐いても、胸に痞えてる物は出しきれず。

まだ赤い頬に温くなりかけた缶を押し当てても、当然ながら腫れは引かない。

代わりにピリリと痛みが走った。



昨夜、タダシに婚約解消を申し出に彼のマンションへ行った。

ごちゃごちゃと理屈を並べるより、単刀直入に言った方がいいと結論をまず口にしたあたしの顔に飛んできたのは、そこに居合わせた彼の母親の平手。

パンッ と乾いた音が一発。
直後にパン、パンッ と連打。

罵倒されることは覚悟してたけど、まさか三発もぶたれるなんて……。

衝撃に思わず体が揺れた。

仕様がない、自業自得なんだ。
と心の中で繰り返しても気持ちは怯むばかりで。

『慰謝料を請求してやる』と怒鳴られ、冷めた目つきのタダシに『君は愚かな人間だ』と言われ。

蹴りだされるように玄関の外へ追いやられた帰り道、さすがに虚しさで心がいっぱいになった。