その後に口にした食事の味なんて、覚えていない。
4ヶ月ぶりに再会した恋人は、食事を終えると『仕事がある』といつもの台詞を残し帰って行った。
「バカげたこと、詰まらない、か……」
店を出て、その後姿を見送りながら呟いた。そして心の中で自分に問いただす。
彼が、あたしの理想の結婚相手?
この先にあるのが、理想の将来?
美味しい物を食べても無表情で、羽目を外すことだってない。
コメディ映画やお笑い番組を「くだらない」と一瞥したり。
なんでも先に決めちゃうくせに、母親には相談して……。
それに久しぶりに会ったというのに、お互いに感動もないし。
学歴や収入以外に、今まで彼の何を見て、どんなところをわかってきたというんだろう……?
あたしの思い描いていた未来って ――
「違う。こんなんじゃない」
人の波に逆らうように、その場に立ち尽くしていた。
背の高いタダシの姿が、離れた場所で人ごみに紛れ見えなくなる。
その時、不意に背中に感じた何かに、ゆっくりと振り返った。
こんな雑踏の中で、たった一人の存在に気づくなんて変だって思いながら ――
彼を、見つけた。



