それだけでいい。
それだけで十分だ。
もう思い残す事はない。
眠り猫は前足にグッと力を入れる。
「我は初代江戸幕府征夷大将軍・徳川次郎三郎源朝臣家康様を守護する眠り猫! 主の恩為に、いざ参上つかまつる!」
全身の毛が、まるで流れるように頭から尻尾まで逆立ちを見せた。
「秘奥・毛幻の術!」
バッサー!!
眠り猫の体から毛が次々と抜け、風に乗り金縛りを掛け合う2人の視界を防いだ。
「うわっぷ!」
姿が見えなければ金縛りの効力は無し。
顔に付く毛を払うためにも、術を解いて手で振り払った。
「うにゃあああああああ!!!!!!!!」
バッ!!!!
勢い良く地面を蹴り上げるとアスファルトは削られ後方に飛び散り、毛に乗じて黒ガラス目掛けて猛突進をした。
黒ガラスは視界が見えなくとも、眠り猫の性格は分かる。
真っ直ぐ向かって来る事を。
それならば対応は一つ。
「このくだらん抜け毛ごと、蹴散らしてくれるわ!!!」
出力を最大に上げ、今までにないくらいの声を張り上げた



