「きっと前に日本にいた時は、お母さんがいたから……。だから、楽しい思い出しかなかったんだ」
ピーターの表情が、少し曇った気がした。
「お母さん、今は来ていないの?」
蘭はおそるおそる聞いてみた。
何だか聞いてはいけない気がしたが、聞かずにはいられなかった。
「事故で。――2年前に死んだんだ」
と、ピーターは淡々と答えた。
「……」
蘭はうつむいた。
どう答えていいのか、わからなかった。
「今はお父さんと2人。だから、何か物足りないのかな。いつも、前にいた時と比べてしまう」
無邪気な笑顔の裏に、こんな悲しみを抱えていたのか。
蘭には、ピーターの悲しみがわかる気がした。
両親が離婚した時。
蘭は7歳だった。
父親が育児に関わらなくなったのは、いつからだろう。
沖縄に行った家族旅行。
脳裏に残る、蘭の名前を呼ぶかすかな父親の声。
佐雪と言い争っている怒鳴り声――。
蘭の記憶の中に残っている父親のそれは、その程度のものだった。
いつも佐雪が守ってくれた。
いつも佐雪がそばにいてくれた。
父親の役も母親の役も、1人で担っていた。
そんな佐雪の背中を見ていたから、父親のことを恋しがるのは罪な気がした。
時が経って、いつしか父親を憎むようになった。
どうしてお母さんを、私を守ってくれなかったのだろう。
どうしてお母さんを、悲しませることしかできなかったのか――。
ピーターの表情が、少し曇った気がした。
「お母さん、今は来ていないの?」
蘭はおそるおそる聞いてみた。
何だか聞いてはいけない気がしたが、聞かずにはいられなかった。
「事故で。――2年前に死んだんだ」
と、ピーターは淡々と答えた。
「……」
蘭はうつむいた。
どう答えていいのか、わからなかった。
「今はお父さんと2人。だから、何か物足りないのかな。いつも、前にいた時と比べてしまう」
無邪気な笑顔の裏に、こんな悲しみを抱えていたのか。
蘭には、ピーターの悲しみがわかる気がした。
両親が離婚した時。
蘭は7歳だった。
父親が育児に関わらなくなったのは、いつからだろう。
沖縄に行った家族旅行。
脳裏に残る、蘭の名前を呼ぶかすかな父親の声。
佐雪と言い争っている怒鳴り声――。
蘭の記憶の中に残っている父親のそれは、その程度のものだった。
いつも佐雪が守ってくれた。
いつも佐雪がそばにいてくれた。
父親の役も母親の役も、1人で担っていた。
そんな佐雪の背中を見ていたから、父親のことを恋しがるのは罪な気がした。
時が経って、いつしか父親を憎むようになった。
どうしてお母さんを、私を守ってくれなかったのだろう。
どうしてお母さんを、悲しませることしかできなかったのか――。
