「こいつは総司と違って天然だから、悪気がねぇから困るんだ」


「……?土方さん?何か言いました?」


「何も言ってねぇよ」



隣でボソッと呟く土方さんに首を傾けつつ、「まあ、ええか」とどうでもよくなる。


こういう時、土方さんに何回聞いてもはぐらかされて、終いには怒鳴られて終わるから気にせぇへんことが一番。


うちだって、ちゃんと成長するんやから!


土方さんは何か書類に書き込んではるみたいやけど、うちの顔を見ずに話し出した。



「雪」


「はい?何ですか?」


「お前、桝屋へ密偵に行けるか?」


「……っ!?」



ん?

え?

うちの耳、可笑しくなったんやろか…?


土方さんが、うちに仕事頼んでくるとか有り得へんよなぁ?


首を傾けつつ、もう一度土方さんに尋ねる。



「ひ、土方さん。もう一度言って貰ってもええやろか?うち、なんか耳が悪くなったみたいで…」


「だから、舛屋へ密偵に行けるか?って聞いてんだよ」



一回でちゃんと聞けよ、ってため息を吐く土方さん。

書類に目を向けて、うちの顔を見ずに淡々と話してて…。


それって、皆と一緒に千春ちゃんを探してもええよって、遠回しに言ってるんやんな…?



「土方さんっ!」


「んだよ、うっせぇな。お前にはやっぱ無理か?」



不意に顔をこちらに向けて、不敵に笑う土方さんは、めっちゃ悔しいけど顔が整ってるから格好良い。


いつもは不機嫌な顔しかうちに見せへんのに…胸が苦しくなるやんか!



「無理ちゃいます!密偵やります!うちも、千春ちゃんを探すっ!」



密偵なんて、千春ちゃんの為なら…たとえ火の中水の中!どこまでも探しに行きますっ!!