あんな最低な人に、からかわれるなんて。
正直、気分が悪い。
嫌悪している人から、嘘でも交際を申し込まれるのは。
──昨日の…。
『僕、君の事気に入ったんだ』
『……………は?』
『ねぇ、僕の妻になる気はない?』
『と、稔麿…!?』
──あの、謎の告白から夜が明け、太陽が顔を出し、朝日が差し込む。
「…………うざ…」
怠い身体を起こし、軽く目頭を押さえる。
どういうわけか、昨晩は一睡も出来なかった。
布団も枕もないただの畳の上で横になるのは初めてで、寝心地の悪さに驚いた。
(……頭と肩と……ていうか全身怠い…)
寝るひまがあるなら、こんな部屋から抜け出したかった。
だけど、恐らく部屋の外には見張りがついているだろうし、隣の部屋は名無しさん達が使ってる。
あたしはなんの力も無いし、抜け出す勇気もない。
それに…、携帯も名無しさんが持っているし。
唯一の救いは、窓から見える景色が京の風景だということ。
まぐれでも建物を抜け出せれば、あたしは───
「──抜け出せても、帰る場所なんてない…」
彼等に見放されているのに、あたしが帰る場所があるわけない。
一晩、外の様子を窺っていたけれど誰も外を歩いていなかった。
それに、人の気配もなかった。
そして、新撰組の女中はあたしだけじゃない。
雪さんがいる。
お世辞にも、まだちゃんと仕事が出来るとは言えないけれど。
……あたしはもう、彼等にとって必要性のある人間ではないんだ。
『あんたが…!あんたが死ねば良かった……!!』
「──っ……」
嫌な過去。
手に力が入り、顔がグシャリと歪む。
こんなに沈んでいるときに限って、お母様から言われた言葉を思い出してしまう。
あたしは、幕末に来ても存在価値のない人間なのだろうか……。

