新撰組の女中であるあたしを、必要以上に調べた名無しさんは、きっと彼等にとって危険な存在。
そして、もし名無しさんが、攘夷派で、長州藩士であり、彼等が追っている人物だとしたら?
その情報を、少しでも聞き出せたら、あたしにも役に立てる事があるかもしれない。
それで、あたしの存在価値が少しは上がれば…。
(──あたしを、必要としてくれるかな…)
着物の裾の中にある、ピンクの扇子をそっと撫でた。
あたしの気のせいでなければ、また空気が緊張し、ピリピリしている気がする。
「僕の名前が知りたいの?」
「……はい。とても」
「えぇー…じゃあ、お嬢さんが僕達の方に来てくれたら教えてあげる」
「……嫌、だと答えた場合は?」
「勿論、交渉決裂。名前は教えないよ」
名無しさんは、またニコリと含み笑いをする。
あたしは震える体をなんとか鎮め、挙動不審にならないように名無しさんの目を見つめ返した。
(……待って)
交渉決裂?
そもそも、あたしは名無しさんと交渉なんてしていないわ。
ただ、質問をしていただけ。
それに、名無しさんのが多く質問をしてきている。
『じゃあさ、僕もお嬢さんが聞いた数だけ質問してもいい?平等になるようにね』
ふっ、と頭の中に名無しさんの言った言葉を思い出し、隠す事なくため息を吐いた。
全然、平等じゃないわ。
もう名無しさんの方が、多く質問してきている。
………いや、こんな人を信じる方が馬鹿なのかしら。

