まあ、いいか。
どうせただの気まぐれなんだろうし。
ひたすら扇子を煽っていると、原田さんが団子を食べながら口を開いた。
「…なぁ、千春ちゃん。ちっと聞きてぇ事があるんだが…」
「…?…何でしょうか?」
珍しい。
原田さんが口を濁しているなんて。
いつもなら、ストレートに言葉を言っていたような気がするんだけど。
「昨日、誰かに会わなかったか?」
「………」
昨日、は確か……。
──『君が僕を嫌いなのは知ってるよ?だからこそ、面白いんだ』
急に思い出し、ほんの少し眉をしかめてしまう。
(…そういえば、昨日…名無しさんに会った)
黒髪で、かなり長身の男。
昨日気がついたけど、左目の横に泣き黒子がある。
(……でも、それだけ)
これは別に、報告なんてしなくてもいい、かな…?
新撰組に仇なす者でもないだろうし…。
それに、あの名無しさんを思い出すだけで腹が立つし。
あたしは扇子の動きを止めると、きっぱりと口を開いた。
「……、特に誰とも会っていませんが…」
「そうか…、わかった。変な事聞いて悪かったな!」
「…いえ。気にしてませんから」
…これでよかったのだろうか?
扇子を扇ぐ手を止め、着物の裾を軽く握った。

