時刻は、丑三つ時。
新撰組鬼の副長と異名をもつ、土方歳三は、まだ仕事に頭を抱えていた。
「ったく…相変わらず尻尾は出さねぇ、か」
(どう考えたって、まだ答えなんざ出ねぇんだ。……もう今日は寝るか)
久しぶりにちゃんとした睡眠をとろうと思い、持っていた筆を置く。
すると、障子の向こうで気配があり、小さな声が聞こえてきた。
「……副長、山崎です。少しお耳にいれておいてもらいたい事があります」
「……入れ」
内心、舌打ちをする。
(せっかく寝ようと思ったら…、まあ、いい)
山崎は音も無く部屋に入り、土方の目の前に座る。
「で?何だ、話とは」
「…神崎千春についてです」
土方の眉がピクリと動く。
長い沈黙の後、息を吐いた。
「…神崎がどうした?」
「神崎は、先日と今日の夕刻、吉田稔麿と思われる男と接触していました」
「何っ!!?じゃあ今日の仕事が──」
「いえ、恐らく彼女は吉田稔麿とは知らない筈です」
山崎が冷静なのに対し、土方は焦っているのに気付き、眉間を押さえた。

