あたしの顔を見ながら、名無し男は当然のように呟く。
「君が僕を嫌いなのは知ってるよ?だからこそ、面白いんだ」
クスクス、と笑う名無し男に鳥肌がたった。
たまに、この名無し男から逃げたくなるくらいの恐怖を感じる。
「……趣味悪いですね」
最低。最悪。
最早、この2つの言葉は名無し男の為にあるんじゃないか、と思える程。
(……それにしても、どうしてこの名無し男は、あたしに近づいてくるわけ?)
…平成でいう、ナンパなのかな?
名無し男はふと空を見上げ、手を顎に添えて何か考え込んでいる。
「んー…、もう日が沈むね。君はもう帰った方がいいな」
「……それでは、失礼します」
その言葉を聞いた途端、あたしは無視してクルリと方向転換し、スタスタと帰っていく。
「え、やっぱり帰るの?あっさりし過ぎでじゃない?」
後ろで何か呟いているような気もするけど、幻聴なので気のせいという事にする。
きっと、あたしは疲労が溜まっているんだ。
(そんな事より、時間がない…っ)
焦っていたあたしは、知らなかった。
橋の上で、名無し男が…。
「うーん…なかなか懐いてくれないなあ…神崎千春ちゃん。いくら調べても新撰組女中としか出てこないし…」
ま、いっか。と笑い、名無し男が呟いていたのを、あたしが知る由もない。

