「……ふぅ…」
早足で行ってよかった。
もう夕刻だから、お店も閉店準備に取り掛かっていたし。
あたしはついでに味噌も買っておいたので、当分調味料には困らないはず。
想像より少し重い包みを腕に抱えながら、橋の上を歩く。
すると前方に、見たことあるような男を発見する。
向こうもあたしに気がついたのか、含み笑いをしながら近づいてきた。
(……最悪)
あたしは顔に思いっきり出ていたのか、男は含み笑いから苦笑いに変えた。
「そんなに僕が嫌いかい?お嬢さん?」
「…げ…」
あの不愉快極まりない、名無し男と会ってしまった。
今日は厄日決定だ。
無視する事に決め、視界にも入れずスタスタ歩いていると、名無し男もあたしと同じ速度でついてくる。
「ねぇ、君の名前は?ついでに何処に住んでるの?」
「……」
うるさい。
「それに、そんなに急いでどうしたの?…ああ、晩ご飯の準備かな?」
「……」
しつこい。
「聞いてる?君が答えてくれないと僕、幽霊に話してるみたいじゃないか。何か反応してよ」
「……」
うざい。
「ちょっと、待って」
名無し男を見る事なく、橋の上を通過する前で、肩をグイッと引っ張られた。
「きゃ…!」
それでも塩と味噌は落とす事なく、腕の中にあるのでほっと一息吐く。
そして、強引に振り向かした名無し男の顔を睨んだ。

