元々、この男は感じ悪かったけれど…。
(……最低ね。視界にも入れたくないくらい)
こうやって、噂話しか知らないのに、さも自分が一番理解しているんだという馬鹿な人、嫌い。
「──へぇ。じゃあ、君は逆に沖田の何を知っているの?」
「……貴方に教える義理は無いですね」
やっぱり、この時代にもこんな人はいるんだ。
あたしはもう話す気なんてサラサラないので、席を立って店に入ろうとする。
──パシッ
すると、手首を掴まれた。
「…離して──」
「──君、面白いね。名前は?」
男はあたしの手首を掴んだまま、含み笑いを続ける。
(……ああ、苛々する)
こんな馬鹿(ひと)に限って、常識が無いのだから。
「……人に尋ねる時は自分から。…こんなの、子供でも知ってますけど?」
「あぁ、そうだっけ?でも残念。僕の名前は…無しで」
「……そうですか。では名無しさん、この手を離して下さい」
「あれ?君の名前は?」
あたしの名前が本気で聞けると思ったのか、男は首を傾ける。
どうして名前を答えない相手に、あたしが自分の名前を言わなくちゃいけないのよ?

