ふと、下に視線を向ける。
(あ……)
無意識の内に緊張していたのか、あたしは着物の裾をギュッと握りしめていた。
(……雪さん。雪さんの所へ行こう)
そう思って、腰を上げようとすると、男はまた口を開く。
「あのさぁ、あんな男といて君、怖くないの?」
「……え?」
怖い?
沖田さんが?
……怖い…?
「だって、あいつ──」
「──…い」
「え?」
「うるさい。…沖田さんは貴方が思ってるような人じゃない」
──怖い?
そりゃあ、あたしは沖田さんが仕事の為、人を斬った所なんて見た事ない。
あたしが知ってる沖田さんなんて、甘味大好きで過保護な人だし。
──沖田さんが?
だから、沖田さんの<仕事>をしている所を見たら、正直怖いかもしれない…じゃなくて、確実に怖い筈。
だって、あたしは人を斬るどころか、小刀一本も持った事はないんだから。
人の噂なんて、広まっていく内に尾びれがつくもの。
──怖い?
だけど、そんな噂しか知らない…しかも初対面の人なんかに…。
「……沖田さんを悪く言うのは…許せない」
…一体、どんな権利があって、貴方が彼を語っているのかしら?

