そしてそのまま、沖田さんは笑いがちゃんと収まる前に巡察に戻っていった。
巡察に戻ってくれたのは、いいんだけど…今までの会話のどこに笑う要素があったのだろう?
(…考えても無駄かも。沖田さんって…変な人だし)
まあ、それは置いといて…。
店内をグルリと見渡し、雪さんの姿を探せば…今は簪が並べられている棚を真剣に眺めている。
まだまだ時間がかかりそうなので、あたしは店の前にある長椅子の端に座って、雪さんを待つ事にした。
(…外に出たの、ほんと久しぶり)
扇子を片手に持ちながら、町行く人々をただボーっと見つめる。
当たり前なんだけど、皆着物だし、電柱なんて無い。
その当たり前が、今日は少し寂しく感じる。
ここは幕末で、平成じゃない。
だけど、幕末には平成にない物がある。
あたしは、どうして幕末にいるのだろうか…。
「──隣座っていいかい?お嬢さん?」
「…!…どうぞ」
突然声をかけられて、反射的に答える。
声をかけてきた人は、男でかなり長身の人だった。

