そして湯飲みを受け取り、お台所に行こうとすると。
「……部屋まで来なくていい」
「……は?」
斎藤さんが変なことを言うので、立ち止まり返事を待つ。
部屋まで来なくていい、って…。
一体どこへ運べばいいのだろう。
そんなことを思っていれば、斎藤さんはふと上に視線を向ける。
あたしもつられて上を向くと、斎藤さんはポツリと呟いた。
「……綺麗な月だな」
「………そうですね」
確かに、真っ暗な空を照らすように三日月が輝いている。
…斎藤さんは、一体何がしたいのか全くわからない。
「……俺は、ここで月を眺めて待っている」
「……。わかりました。…すぐにお茶をお持ちしますね」
あたしはペコリと頭を軽く下げると、湯飲みを握りしめながらスタスタと歩く。
……月なんて、斎藤さんの部屋の前でも見れるじゃない。
意味不明。
斎藤さんの、考えていることがわからない…。
悶々と考えながら、あたしは台所へと向かった。

