「千春さん、家は何処ですか?もう夜更けですし、送っていきますよ?」
「………結構です」
全く考えていなかった。
自分に、帰る場所なんてないんだ。
あたしは、どこかで飢え死にでもするのだろうか。
「駄目ですよ。こんなに暗い夜道を女性1人で歩くなんて、危険すぎます」
「…大丈夫ですから、この手、離して下さい」
大丈夫だから、離して。
あたしは、楽になりたいの。
こんな醜い世界で、生きていくのはもううんざり。
だけど、沖田さんの目があたしを捕えて離さない。
こういう、真っ直ぐな目は苦手。
まるで、あたしを責めているみたいだから。
「嫌ですよ。今手を離したら、千春さんは死んでしまうでしょう?」
「…あなたには、関係のないことでしょ?」
「いーえ、今こうして知り合いになったんですから、関係あります。ほら、もう帰りましょう」
グイっと手を引っ張られた。
だけど、あたしはその場から進むことは出来なくて、立ちすくむ。
沖田さんも不思議と思ったのか、首を傾げている。
だけど、閃いたように、にっこりと笑った。