私ひまわり、あなたは花屋


「ところでアンタこの辺じゃみかけない顔だねぇ。迷子かい?」

「だからそんな子供じゃないですから。なんなら免許証みせましょうか」

「わっはっはっ。冗談だって」

 本当かなぁ。

 まあこんなに美味しいメンチカツをご馳走してもらったのだからこれ以上責めるのはよしておくとしよう。

「で? 実際のところは?」

 何かおもしろい物をみつけた子供のような瞳で聞いてくるおじさん。

 白髪交じりの角刈りで、見た目けっこういかついのに。

 どっちが子供なんだか。

「ちょっと花屋さんを探しに。フルール・シエルって、知ってます?」

「なんだ。あそこに用事かい」

 なんとなく予想してたけど、やっぱり近隣のお店は大体顔見知りなのだろうか。

「だったらこれ持ってきな」

 そういって差し出されたのはさっきのメンチカツ。

 しかも10個も。

「え? いや、あの……」

 ついでにお使いってことだろうか?

 そりゃ美味しいメンチカツ奢ってもらったわけだし、そのくらい喜んでするけど。

 ところがどうもそういうわけでもないらしい。

「譲ちゃんあの店に行くの初めてなんだろ?」

「えぇ、まぁ」

「だったらそいつが必要だ。心配すんな。代金はきちっとその店に請求すっからよ」

「は、はぁ……」

 なんだかよくわからないけれど、このおじさんがイタズラを考えてるようにも思えないし。

 ともかくいう通りにして持っていくとしよう。

 別に自分のお財布の中が減るわけでもないし、ね。

「じゃぁ、ありがとうございました」

「おう。“がんばってな~”」

 花屋で何を頑張るというのか。

 ワトソンくん、私にはどうもお店に着くまでに解けそうにないよ。