私ひまわり、あなたは花屋


 通勤電車の中の私たちは“しおれたひまわり”だったけれど、ここに住む人々は太陽に向かって“力強く咲き誇るひまわり”だ。

 笑いあい、肩を寄せ合い、いさかいすらきっと“元気の証”で。

 そう考えると、なんだか自分がとても寂しい日々を送っているんじゃないかと、惨めな気持ちになってくる。

「家族、か……」

 ひとり暮らしを初めて早数年。

 実家に帰ったのはいつだったか。

「おう譲ちゃん! なんだいなんだいしょぼくれた顔しちまって!!」

「へっ!?」

 視線を落としかけたそのとき、不意に小気味の良い声が私の耳に入ってきた。

 その声の方を向くと、どうやら主はお肉屋さんのおじさんだったらしく、

「青春真っ盛りの女学生がそんなしみったれた顔しちまってちゃいけねぇよ」

「あ、いや私これでもにじゅ──」

「いいからいいから! ほれ、これでも喰いねぇ」

 そういってこちらの話などお構いなしに問答無用で押し付けられたのは、

「ウチのメンチカツ喰って元気にならねぇやつぁいねぇんだ。ほれ、アツアツのうちに!」

 新聞紙に包まれたそれは揚げたてで、じっと持っているとやけどでもしそうなくらいに熱い。

 どうしようかと迷ったのは一瞬で、立ち昇る湯気が鼻にかかった途端に溢れ出す唾液。

「じゃ、あの、いただきます……」

 やけどしないよう気を付けながら衣に歯を立てると、食パンを粗く挽いて作ったそれがさっくり、と芳ばしさを主張しながら景気の良い音を鳴らす。

 そこからさらに歯を押し進めると、

「んんっ!!」

 まってましたと弾けるように飛び出す肉汁。

 鼻の奥をずんっ、と刺激する牛肉の香り。

 2、3度噛みしめるとたまねぎの甘味が牛肉の旨味と手を取り合い、口の中で縦横無尽に“ジャイブ”を踊る。

 その熱く激しいダンスに脳を揺らされてくらり、とめまいすら覚えるけれど、それを胃に落とすや、

「ほぅ……」

 えもいわれぬ幸福感で、ついため息が漏れた。

「どうだい?」

「すっごく美味しい!」

「そうだろうそうだろう」

 これは確かに、元気が出る。