「男性に花をもらうっていうのは、そりゃまぁ悪い気はしないけどさ……」
いかんせん、もらう理由がまるでないので正直心地悪い。
それに彼の態度を思い出すとなんだか“残飯処理”でもさせられたような、腑に落ちない気分になる。
けれど突き返しにいこうにも、住所どころか名前すら知らない。
電車に乗り込むでもなくそのまま去っていったということはあの駅が自宅からの最寄り駅なのだろうとは思うけれど。
それにしたってそこからどのくらいの距離に住んでいるのかわからない。
せめて“よく通る道”でもわかればいいのだけれど。
どうしたものか。
ベッドの上で腕組みをして、なんとなくひまわりに目を向ける。
と、
「あ……」
あることに思い至る。
「もしかして──」
私はアレンジメントを持ち上げてくるり、と横に回転させてみた。
すると、
「──あ、あった!」
アレンジメント全体を覆ったビニール包装の“耳”に、それを見つける。
楕円形のシール。
「ふ、るーる……しえ、る?」
『fleur ciel(花の空)』
間違いなくこれが、このアレンジメントを売っていた店の名前だ。
後はこの店名とあの駅の名前で検索すれば場所がわかるはず。
男の人が花を買うのにわざわざ“店を選ぶ”とは思えないし、ましてやあの無愛想を全身に着込んだ彼ならなおさらだ。
つまり、このお店は彼の普段の行動範囲圏内にあるはず。
手元に“パイプ”でもあれば、
「いかがかね、ワトソンくん?」
と自慢げに独り言を口にするところだけれど、それはそれで寂しいのでなくて本当に良かったと思う。
「よし、いってみよう!」
勢い良くベッドを降りた私はさっそく着替えを始める。
もちろん、今日の今日逢えるなんてことは思ってない。
ただ、つまり、要するに──
──“お出かけ”の口実が欲しかっただけなのだ。


