◇ ◆ ◇


 首筋がじっとりと汗ばんだその感触で、

「う、うぅ~ん……」

 私は目を覚ました。

 時計に視線を向けると短針はすでに頂上間近。

 休日の乙女が起きる時間じゃないのだろうけど休日の社会人としては比較的まともな時間だと思う。

「あっつ……」

 時計の針が頂上間近なら太陽も同様に頂点間近なわけで。

 取りあえずクーラーのリモコンを求めてベッドの棚に手を伸ばして――

「あ……」

 かさり、と手にビニールの包装の感触。

 と同時に、昨夜の出来事がまだぼんやりとしていた頭を刺激するように甦る。

 電車が去ったあの後。

 彼は軽くため息をついたかと思うとおもむろに携帯電話を取り出して、

「もしもし。あぁ悪い。ちょっと遅れそう……あ? そうか。わかった。じゃあな」

 もの凄く淡白な会話。

 ところが直後に彼が放ったさらに淡白な言葉と行動は、私を混乱させるには十分だった。

「ん。やる」

 有無を言わさない態度で、遠慮のカケラも何もなく私の胸にアレンジメントを押し付ける。

「は? え?」

 突然のことに戸惑う私のことなどお構いなしで、

「必要なくなった。アンタのせいだからアンタ責任もって持って帰れ」

 無愛想とかそういうレベルを通り越してもはや傍若無人な物言い。

 何がどうなって、こういう展開になるのか。

 たぶんさっきの電話の相手に渡す予定だったのだろうけど、それ以上のことを想像する暇もない。

 すると次の瞬間には彼は私にさっさと背を向けて、

「まったく。災難だ」

 そうつぶやいて去っていったのだ。

 今にして思えば災難なのはこっちなのだけれど、そのときの私はただただ呆然として。

 ようやく正気に戻ったのは、次の電車が入線するアナウンスが駅に響き渡った頃だった。