「あっぶねえなあ……」

「え!? あ、ご、ごめんなさい!」

 一瞬、ひまわりが喋ったのかと思ったけれどそうじゃなかった。

 少し視線を上げると、眉をしかめた青年の顔がそこにあった。

 切れ長の、どこか黒猫を思わせる吊り気味の瞳が印象的な青年は、抱えていたひまわりのアレンジメントを、

「折れては……ない、か……」

 首が折れたりしていないか、形がつぶれてはいないか念入りに調べたかと思うと、今度はいかにも不機嫌そうな表情に。

 すると、

「で?」

「は?」

 こちらを“見下ろし”ながら発せられるひとこと。

 主語もなければ述語もないので当然、意味がわからない。

 やっぱり花がどこか傷付いたのだろうか?

 弁償金払えってこと?

 そう解釈した私はバッグの中からお財布を取り出しつつ、

「あ、あの、おいくら……」

「は?」

「いや、だから弁償……」

 あれ?

 違った?

「あ、そっか。まずはごめんなさいですよね。いきなり飛び出してきてごめ──」

「ちげーよ。のんの? のんないの?」

「へ? のんの?」

「だから、電車に乗らねぇならそこをどいて──」

 彼がその言葉を言い終る前に、そして私がそれを理解するより前に、背後で何やら空気が勢い良く抜けるような音が聞こえて、

「あ~……」

 蒸し煮状態でお肉をその身に詰め込んだ電車が発車したのだった。