なのに彼は、
「だからいいって。それに充分お代はいただいたさ」
「え?」
それって、メンチカツのことをいってるのだろうか?
だとしたら、
「お肉屋さん、後でここに請求するっていってたわよ?」
「んなこたわかってるよ。でも、配達料はそこに入ってないだろ? アンタが持ってきてくれたわけだから」
「あ……」
「それでチャラってことで。花の処分費も浮いたわけだしな」
にっこり、には程遠いどちらかといえばにやり、と口の端を上げて片目をつむる。
そんな表情されちゃ、このくらいじゃ全然足りなくなっちゃうんだけど。
けれどそれを口にするだけの度胸はない。
代わりに、ふと浮かんだ疑問について尋ねてみる。
「そういえばあのひまわり、誰にあげる予定だったの? 配達、じゃないよね。商品をほいほい人にあげるわけにはいかないでしょうし……」
「あぁ、あれな。昨日は妹の誕生日だったんだよ」
「妹さん? ほんとに?」
「だから嘘ついてどうすんだよ。ったくアイツ、人がせっかく仕事終わって持っていってやろうと思ったら「今日は友達とオールで遊ぶからまた今度にして~」だとよ。最近夜遊びのし過ぎ──なんだよ」
「っくっくっくっくっく」
必死に笑いをこらえる私を睨みつける彼。
だ、だって、ねぇ?
「あーはっはっはっはっ! シスコンだぁ!!」
「なっ! ばかやろう!! これは兄としてだな!」
どんなに凄んでも、耳が真っ赤な時点でちっとも怖くなんてない。
やっぱり、人は見かけによらないもののようだ。
「あ~っくっくっくっ、おかしい~」
「ふんっ!」
「あ、ねぇ」
「なんだ」
「そういえばあなた名前は? 私の名前だけあなたが知ってるなんて不公平じゃない?」
「……さっき呼んだじゃねぇか」
「え?」
「……や、だよ」
「はい?」


