「でも、じゃぁたんぽぽは? あれだって同じとうじょう、花序? なんでしょ?」
「たんぽぽは自由だろ? どこへでも飛んでいける。でも人間はそうじゃない。自由だなんだつって憧れはあっても、本当に自由にどこにでもいけるなんて奴はそういない」
確かにそうだ。
人は日々、自分の周りを、日常をただただ守ってる。
結局どこにもいけない葛藤と、戦ってる。
同じ毎日の繰り返しに疲れて、自分じゃない何かに憧れて。
夢と、現実と。
その狭間で揺れているように見えてその実、常に現実という場所にいる。
「どこにもいけない、惨めな人生ってことか……」
そんな悲観的な感傷を口にすると、
「ばっかだな」
あっけらかんとした口調で彼はいった。
「惨めなんじゃなくて、そういうときは凛々しく生きてるっていうんだよ」
「凛々しい?」
「そ。日常を。そこにいることを誇りに真っ直ぐに上を目指す。誰かと助け合いながら、時にはうなだれて、でも毅然と顔を上げることを忘れない」
そして強く大きな幹になって、次の世代に自分の生きた力強さを受け継ぐ。
そういった彼の顔は、私なんかよりも余程“向日葵”が似合う気がした。
「特別ってのに、自分ひとりだけなってもつまんないだろ? 誰かが隣にいて、それを喜んでくれるから俺たちは嬉しいって気持ちを持てる」
「……花屋って、すごいね」
「あん?」
「今までそういう風に花について考えることって、なかった」
もしここにこなければ、きっと私は一生ひまわりが嫌いで、自分すら嫌いで嫌いでたまらなくなっていたに違いない。
「ここにあるそれぞれの草花に、誰かがそれぞれの想いを巡らせるのかな?」
「そういう出逢いを、出逢いの機会を作るのが俺たちの仕事なのさ」
「ふふふ。おかげさまで、私はひまわりが好きになれたわ」
「そいつはけっこうなこった。これであのアレンジメントも無駄にならずに済んだってことだな」
「そうね。じゃぁやっぱりお代、払わないと」
こんなに素敵な気持ちにさせてくれたのだ。
対価を払うのは当然。


