私ひまわり、あなたは花屋


 人は見かけによらないとはこのことをいうのだろう。

「ん。砂糖は好きに入れて」

「あ、どうも……」

 テーブルの上に置かれた紅茶の入ったカップをおずおずと手にする。

 ハーブティーというやつだろうか。

 名前はよくわからないけれど酸味の中にほのかな甘い香りのする薄い黄みがかったそれを少し口に含むと、ようやく肩の力がちょっとだけ抜ける気がした。

 それにしても彼が花屋の店員だというのは思いもよらなかった。

 そもそもこんな無愛想な人間がまともに接客なんて出来るのだろうか?

 改めて店内を見回す。

 円筒状のケースがずらりと並んだ場所は切花のコーナー。

 きちんと高さを切りそろえられた花々はカラーグラデーションを意識して陳列されてる。

 葉ものや実ものなどの見た目が“重い”ものは下。

 花ものが中段。

 細い花や茎のものは上段。

 こうすることで多めに草花が店内に陳列されていても閉塞感を軽減できて効果的だ。

 ラッピング用のリボンや包装紙もかなりの色をそろえてあるし、店内の掃除も行き届いてる。

 他に店員さんは休みなのか、それとも彼ひとりで切り盛りしているのか。

 だとしたら物凄くきめ細かい配慮がされてることになる上に相当な仕事量だ。

(……なんだけど、ねぇ)

 当の本人はというと、

「ごっそさん。まぁまぁだな」

 あの最高のメンチカツを、しかも10個全部一気に食べておいてそのコメントはどうなのよ。

 この人が“気を配る”なんてことをするとは到底思えない。

 もう一度見回して、やっぱりどこかに他の店員さんがいるんじゃないかと探してみるけれどその様子は、ない。

(これはもはやミステリーだよ、ワトソンくん)

 おまけにハーブティーも美味しい。

 何かに化かされてるんだろうか?