扉が静かに開く。

あたしはそれを固まった視線で捉える。


颯先輩かなとも思った。

でも違う。

颯先輩はこんなに静かに扉を開けないと思う。


扉は静かに、なるべく音を立てないように、ゆっくりゆっくり開いた―――。



玄関の扉からは見た事のない男の人が入ってきた。

入ってきたその人は俯き加減でまだあたしがいる事に気付いていない。


でもあたしは分かった。

きっとこの人が“樹”さんだ。


樹さんは今入ってきた玄関に鍵を掛けて振り向いた。

だけど暗くてよく見えない。


「誰だ」


静けさが広がる暗闇に低い声が響いた。