あの声が聞こえた日から数日が過ぎた。

何も起きないけれど相変わらず不安は消えない。

今はもう夕方。
お客さんも大分減ってきたので神社の見回りをしている。

すると桜の木の前で誰かが座っていた。

「あの、どうしましたか?」

私はおずおずと話しかける。

「桜を見ていたんだ。」

ゆっくりと立ち上がり此方を振り向く男性。

黒い着物に涼やかな黒髪が印象な人だった。

「桜?」

今は1月で桜なんて咲いてない。

「ああ。思い出の、桜をね。」

優しい微笑みの中になにか寂しさを感じさせる人だった。

「思い出の桜ですか・・・」

私はなんて言ったらいいか分からず立ち尽くしてしまった。

「迎えに来たよ。瑠璃。」

「え?」

なんで私の名前を知ってるの!?

「さあ、俺と一緒に行こう。」

そう男の人に言われると体が動き出す。

「っ!」

術だ!
私は自分の体に結界を張る。