来やがった、と思った。声だけで。
いつだって智は突然にやってくる。救いのヒーローみたいに、私のピンチの時は確実に。
例えその元凶が、智自身だとしても。
そんな憎き救いのヒーロー。



「『来やがった』って何だよ…」

「…声に出てましたか」

「ばっちり聞こえちゃったぜ、憎まれ口」


額を押し上げられて、顔を晒された。
智はそのまま私の向かいに腰を下ろして、冷めきった私の紅茶を飲み干す。


「瑞穂の逃げ場は大抵ここだからな。単純な奴め」


にへっと笑った智の格好と言ったら、殆ど部屋着のままで、あんた日本の4月はまだ寒いんだから風邪ひくよ?…なんて言いそうになったけど、これ以上ごたごたする元気も無いからやめておく。
…嘘。これ以上喧嘩したくないだけ。


「…落ち着いた?」

「…うん」


困った顔して、智が私を見る。
その顔で、1時間前の騒動を全て帳消しにしてしまうのは、愛がまだまだ冷めてない証拠なんだろう。


「智にね、喜んで欲しかったの」

「知ってる」

「それに気付いてくれてないと思ったら、悲しくなったの」

「うん」

「でも、それを押しつけるのは私のエゴでしかなかったね」

「だね」


苦笑してみせれば、智もつられて変なふうに笑った。