町は平和に包まれていた。
これと言った事件は、今日の過激派志士粛正
くらいしかまだ起きていない。
…平和な世は来ないものか。
平和な世にする為に刀を振るうのか――
時々、そう考えていた。
凜の愛刀――緋桜(ヒザクラ)がそうさせる。
緋桜は幼い頃から凜と共にある。
剣を握ったのは、松平に恩を返したい…そう
思ったからだ。
それは、鮮明に覚えている。
気がつけば、凜は大桜の所に来ていた。
大きな大きな桜の木と、開けた原の周りの
桜の木々。
ここは凜のお気に入りの場所。
意外にも隠れた名所らしく、あまり人が
来たりしないのだ。
…だが今日は先客がいる。
「「……あ」」
お互いに見覚えがあった。
大木の桜の根本に座っていたのは、甘味処で
見た沖田 総司だった。
「えっと…水城 凜さん、かな?」
「ええ。あんたは沖田 総司…だっけ?」
何だか気まずい微妙な空気が流れた。