だが松平は凜の無礼を"照れ隠し"だと思い込
んでいるらしく、笑って流すのだ。
…どちらにしても許されるのだろうが。
「…見回りに行ってきます」
「構わないが…休んでも良いのだぞ?」
大仕事を終えてきたばかりだと言うのに、と
松平は眉を下げる。
だが凜は微笑を浮かべてお辞儀をした。
「私は大丈夫です。では」
と行ってさっさと行ってしまった凜の背中を
眺めて、松平は溜め息を吐くのであった。
「あれ、凜。どちらに?」
藩邸の玄関辺りで、犬山と出会(デクワ)した。
「ん…、市中見回りに」
「ご苦労様です。少しくらい休めばいいのに」
凜は熱心ですね、と苦笑。
自分でも人より仕事を熟している事は、重々
承知している。
……たぶん、今の仕事が好きなのだろう。
そう考えて凜はクスッと笑った。
「そうね、いつか有休取るよ」
そう言うと凜は踵を返した。