『父さんな、その時受けた抗がん剤治療で子供を授けられない体になったんだよ』

ドクン…と俺の心臓が鼓動した


『母さんは1人子供が居れば十分よ、なんて笑ってくれたけど…きっともっと子供は欲しかったと思う』

俺は何も言えず、ただ無言になっていた

今までその事実を言わなかった理由は、そんな体になってしまった罪悪感

そして、おふくろはそんな風に思う親父に気を使って言えなかったんだと思う



“あつしに兄弟を作ってあげたかった”

その言葉の意味がこんなにも重たかったなんて…

俺は泣きそうになる気持ちを必死に我慢した


親父がそんな事実を抱えていた事

俺に兄弟を作ってあげたかったと思い続けていた事

だけど、やっぱり何も知らなかった自分自身に泣けてきた

あまりに情けなくて、あまりに後悔が多すぎて


甘やかされて育ってきたと思っていた

でも本当は違う

俺は大事にされていただけ

兄弟が出来ない分、愛情を人一倍受けて育っただけだ


なのに…なんて俺は馬鹿だったんだろ


情けなくて涙が出るよ


『今まで黙っていてごめんな。そろそろ帰ろうか、母さんが朝ごはん作って待ってるから』

親父はそう言うとゆっくりと座っていた腰をあげた


“そんなの全然気にしないでいいよ”

喉まで出かかってる言葉はどれも気を使わせてしまう言葉だと思う

今俺に出来る事があるとしたら、言葉ではなく行動


『……親父、明日から俺も一緒に走るよ。最近運動不足だしね』

そう言うと、親父は嬉しそうに笑った